PMFとは、商品を売るための適切な市場にいて、その市場を満足させることができる製品を提供できている状態を指します。
今回は、弊社の代表取締役CEO、そしてスタートアップ支援専門家でもある前川さんに、PMFの重要性や検証方法、PMFと密接に関わりのあるPSFや多くのスタートアップの失敗要因など企業の成長には欠かせないPMFにまつわる重要なお話をお伺いしました。
本記事では、PMFの段階を4ステップに分解し、各ステップにおける検証すべき課題やPSFとの違いについて紐解いていきます。
監修者情報
そもそもPMF(プロダクトマーケットフィット)とは?
PMF(Product/Market Fit)とはスタートアップのあるProduct(製品)が、あなたのターゲットとするMarket(市場)にFIT(適応)していることを指します。
言い換えると、商品を売るための適切な市場にいて、その市場を満足させることができる製品を作り出している状態のことです。
スタートアップのProduct(製品)がMarket(市場)にFIT(適応)していれば、ユーザーはその商品やサービスを購入したいと思うでしょう。PMFが実際に起こると、あなたの売り出している商品やサービスは飛ぶように売れ、使われるでしょう。
逆に言えば、あなたのビジネスがPMFを達成していなければ、どんなに素晴らしいマーケティングや広告を打っても、ビジネスを拡大することは難しいのです。
PMFを達成するためのステップに全世界共通の基準はありません。しかし、StartupListでは、できるだけわかりやすく説明をするため、PMF達成段階をPSF検証終了から商品の正式版リリースまでと定義し、
以下に示した1〜4の4つのステップに分けて説明を行います。
それぞれのステップの詳しい説明は、本記事の後半で説明します。
- PMF達成のためのステップ
-
- 1. PSFの検証終了
- 2. MVPの作成
- 3. α / β版の作成
- 4. 正式版のリリース
PMFの検証方法
PMFの重要性はお伝えしましたが、PMFが達成できているかどうかの検証方法についてもご紹介します。
NPS指標
NPS指標とは、顧客ロイヤリティを数値化して測る指標の一つです。顧客ロイヤリティとは、顧客が企業や製品・サービスに対してどれだけ愛着や信頼を持っているかのことです。
「この製品・サービスを友人や家族に勧めたいと思いますか?」という質問をして0〜10の数値で回答してもらいます。数値の低い推奨者の割合から数値の低い批判者の割合を引いた数値がNPSの数値となります。よってNPS指標の数値が高ければ高いほどPMFが達成できており、この先の業績が向上していく可能性が高いと判断できます。
顧客満足度という似た指標がありますが、NPS指標はより未来の具体的な質問をしているためより業績予想やPMF度合いが判断しやすく、よく用いられる指標となっています。
リテンションカーブ
リテンションカーブとは、サービスの利用を始めてから経過時間ごとのリテンション率(サービスを継続利用している顧客の割合)を可視化した曲線のことです。
リテンションカーブの形状や傾きを分析することで顧客ロイヤリティや満足度、キャンセル率などを分析することができます。例えば上の図の緑線は青色の線と異なりリテンション率が横ばいになっているのでPMFを達成できている確率が高いと判断できます。
PMF?PSF?
PMFのステップの1番目を見てみてください。1.PSFの検証終了と書いてあります。文字の羅列がものすごく似ているため、この言葉の意味を混同してしまうケースがよくあります。
結論から言うと、PMF達成のため、PSFの達成は欠かせません。PMFの達成に重要なPSFとは何かを簡単に理解するため、まずはPMFの検証方法、そしてほとんどのスタートアップのビジネスが失敗する要因を分析し、PMF達成のための具体的なアクションプランをみていきましょう。
PMFがなぜ重要視されるのか
以下のグラフは2021年最新版のスタートアップの失敗要因
このグラフの分析から、スタートアップにとっていかにPMFが大事なのか分析していきましょう。
スタートアップの失敗要因TOP10
Tech StartupのDaniel Levi氏によると、90%のスタートアップが以上の理由により、事業の失敗をしているといいます。この中で約4割を占める失敗要因は、「ユーザーニーズがない商品、サービスを作ってしまうこと」です。
そのほかにも、4位や6位、10位などを見ると、企業と顧客のニーズの間にずれが生じている事例に関連するものがいくつもあることがお分かりいただけるでしょう。
では、なぜこのような失敗が生まれてしまうのでしょうか。さらに言えば、企業の成長のためには欠かせないPMFをなぜ9割のスタートアップは達成できないのでしょうか?その答えは以下のリストにあります。
以下のリストを見てください。これはPMFを達成するために、企業が段階的に考えるべき3つの重要な質問です。
1,ユーザーが抱える問題は何か
2.ユーザーの抱える悩みに対する自社が提供できる解決策は何か
3.マネタイズは可能か
成功する企業と失敗する企業の大きな違いは、この問いに段階的に考えられているかどうかです。
失敗要因TOP1の「ユーザーニーズがない」では、ユーザーニーズ(上記の画像でいう1番)を解決せずに、2番や3番を考えてしまっている。
失敗要因はTOP4の「価格設定モデルの欠陥」では、1,2番を無視して3番を優先的に考えてしまっている。
失敗要因TOP6では「顧客目線ではなく投資家目線のビジネスプラン」では、1番のユーザーニーズを無視して、急に3番を考えてしまっているのです。
ここまででPMF達成のため、上記の三つの重要な問いを段階的に解決していくべきことはわかりました。ここで、これらの問題を以下のように分類します。
具体的には、1番と2番を解決し終わった状態をPSFの達成、1番から3番までの全てを解決し終わった状態をPMFの達成と呼びます。
この定義からわかるように重要なのはPMFだけでなく前段階のPSFの達成も欠かせないものなのです。
それでは、ここからはPMFの達成のための重要な4つのステップを詳しく解説していきます。
PMF達成のための重要な4STEP
PMFには達成まで複数の段階があり、それぞれ解説していきます。
1.PSFの検証終了
それでは、PSFとは何かをより詳しく解説していきます。先ほども説明したように、PMF達成のためにはPSFの状態になっている必要があります。以下がそれを示す図です。
PSF(Problem/Solution FIt)とは、ユーザーが抱えるProblem(問題、1番)とそれに対するあなたのSolution(解決策、2番)がFIT(適合)しているフェーズです。
より具体的には、1番(ユーザーが抱える問題はなんですか?)は、Desirability(ユーザーニーズ)を指し、2番(ユーザーが抱える問題に対するあなたの解決策はなんですか?)がFeasability(実現可能性)にあたります。この円の合致した点がPSF達成の状態であると言うことができます。
Amazonでの事例
画像提供元:Amazon ホームページ
Amazonは、誰もが知っている企業です。Amazonのビジョンは、「地球上最も顧客中心の会社」であるように、常に顧客目線でのサービス開発を行なっています。そんなAmazonのDesirabilityとFeasabilityをAmazonの三つの柱である「品揃え」、「低価格」、「利便性」のうち「利便性」に絞って、見てみましょう。
1番(ユーザーが抱える問題はなんですか?)=Desirability(ユーザーニーズ)
Amazonができる前まで、多くの人々はインターネット小売店による荷物の配達の遅さに不を感じていました。それゆえに、配達時間の短縮に対する期待は徐々に高まっていました。
2番(ユーザーが抱える問題に対するあなたの解決策はなんですか?)=Feasability(実現可能性)
これに対し、Amazonは、「予約出荷サービス」という新たなシステムを導入しました。これは顧客の購入行動をあらかじめ予測し、その地域に在庫を発送しておくことで、顧客が注文クリックを押すと、すぐに配送されるシステムです。
AmazonのCEOはこの解決策にニーズがあるかどうかを検証するため、タクシーなどを使用して配送実験をしました。
1番を踏まえて、2番の解決策を提示した結果、Amazonは、ユーザーニーズのあるサービスを作ることができました。
順番を間違えるとリスクが数倍に!?PSFの重要性とステップ
どのような製品を作ろうとも、どんな市場を狙おうとも、ユーザーのニーズがなければ商品・サービスは売れないのです。
PSF検証段階では、ユーザーが抱えるニーズとあなたの解決策が適合するかどうかをみていきます。PSF検証のステップを知ることによって、あなたが失敗するリスクを大きく取り除くことができます。
事実、スタートアップ失敗要因の1位、4位、6位、10位(総計約54%)は、ユーザー目線の商品・サービスをしていないことは既に上記で見ていただきました。
これから説明する5つの重要な質問に順番にあなたが正確に答えることができれば、あなたのビジネスはスタートアップの失敗要因であるリスクを少なくとも半減させることができるでしょう。
1 .そもそもユーザーが抱える問題とは何か?
失敗のリスクを未然に防ぐ最初のステップはお客様が何に問題を抱えているかを知ることです。お客様はお客様自身が抱えている問題を解決する製品・サービスを購入します。
お客様が抱えている問題を知るため、世の中に蔓延している社会の「不」(不安、不満、不平等、不経済、不効率、不定期、不安定、不足 etc..)を認知することが重要です。
2 あなたの商品・サービスの顧客は誰なのか?
次に、あなたの商品やサービスを買ってくれるのは顧客は誰なのか?を明確にします。
あなたがどんなに素晴らしい商品を作ってもそれを使用してくださる顧客がいなければビジネスは成り立ちません。このステップでは、あなたの顧客が誰なのかを絞り込むことが重要です。
3 あなたの解決策なしに、現在、顧客はどのようにして問題を解決していますか?
世の中にはありとあらゆるビジネスがあります。おそらく多くの場合、あなたが解決したいユーザーが抱える問題に対して、既に多くの解決策を持ったビジネスが存在しているでしょう。顧客はこの既存の選択肢と、あなたの解決策のどちらかを選びます。
故に、競合を知ることは、顧客が現在ユーザーが抱える問題を解決しているかを知る上で非常に重要なステップになります。
4 ユーザーが抱える問題に対するあなたの解決策はなんですか??
この段階でいよいよユーザーが抱える問題に対するあなたの解決策を検討します。
人々のニーズを理解した上で、解決策を考案することで、ユーザーニーズのある商品やサービスを作ることができます。
5 あなたの解決策は競合の解決策と差別化できていますか?
どんなにユーザーが抱える問題に対するあなたの解決策がユーザーにとって需要のあるものだったとしても、既にある競合商品と解決策が同じであればユーザーは既存商品を買うでしょう。
あなたの解決策は投資家と顧客の両方に対して際立ったものであり、競合と差別化できている必要があるのです。
以上の5つの質問にしっかりと根拠と自信を持って答えることができれば、PMF達成のために重要なステップ1のPSFの検証終了を達成することができます。
2.MVPの開発
PSFの検証終了後にスタートアップは簡単な商品・サービスのプロトタイプを作成し、より現実的な市場条件でユーザーの抱える問題に対するあなたの解決策を検証する必要があります。その検証の際に必要なのがMVP(Minimum Viable Product)です。
MVPの開発とは、新規事業のポテンシャルを低コストかつ短期間で検証しながら、製品サービスの開発をする手法です。
MVP開発では、MVP(Minimum Viable Product)と呼ばれる、ユーザーが価値を感じることができる必要最小限の製品サービスを実際にユーザーに使用してもらい、新規事業にニーズがあるのか、価値があるのかを検証します。
詳しくは以下の記事でMVP開発について詳しく説明してありますのでぜひご覧ください。
3.α/β版の作成
α/β版製品は、MVPの発展型です。この段階では、MVPでユーザーから得たフィードバックをもとに、商品やサービスの機能を変更していきます。
商品開発と顧客からのフィードバックを通して、洗練された商品やサービスを作り出す必要があります。一般的に、α版、β版に明確な定義の違いはありません。α/β版製品はまだ、正式な製品には程遠い状態なので、すぐには一般公開はできません。ユーザーのニーズを満たすことができるかどうかを検証するため、信頼できる内輪の人やコミュニティーに限定し、迅速にフィードバックをもらうことが大切です。
製品が次第に、正式版の商品に近づいていけば、今度は検証するコミュニティーを拡大し、招待制の一般公開をするとよいでしょう。
招待制の一般公開をするメリットは、提供している商品がまだ正式版でないため自己責任で利用していただくことを顧客に明示できることや、誰がその商品に興味を持っているかを簡単に検証できるというような利点があります。
4.正式版のリリース
MVP、α/β版の検証を終えいよいよスタートアップは自社の商品やサービスを市場に正式にリリースします。
ここまでの段階で、あなたの商品やサービスは、ユーザーにとって特定の問題を解決し、完全に機能し、バグなどがない状態になっている必要があります。
スタートアップはMVP作成から、正式版のリリースまで失敗→修正→改善といったサイクルを繰り返して、そのビジネスが、ユーザーが抱える不を解決し(PSF)、さらに収益可能かどうか(PMF)を検証します。
ここで今一度、PMF(Product/Market Fit)を具体的に説明します。
PMF(Product/Market Fit)の具体的な説明
PMF達成とは、PSF達成のDesirability(ユーザーニーズ)とFeasability(実現可能性)の合致点に加え、Viability(成長性)という新たな要素を加えた三要素の合致点でなされます。
Viabilityとは、簡単にいうと、スタートアップがこのビジネスモデルで収益化が可能だということを示すものになります。
ViabilityはMVP(Minimum Viable Product)のViableと語源は同じであり、PMFの検証段階で、実際にプロトタイプの製品開発を通じて収益性があるかどうかも合わせて検証をしていきます。
先ほども示したように、スタートアップはMVP作成から、正式版のリリースまで失敗→修正→改善といったサイクルを繰り返して、そのビジネスがユーザーが抱える不を解決し(PSF)、さらに収益可能かどうか(PMF)を検証します。
正式版のリリースの段階でスタートアップは商品を売るための適切な市場にいて、その市場を満足させることができる製品を作り出している状態に属しているといえ、PMFの達成が無事なされるのです。
(具体例)
先ほどのAmazonの例に戻りましょう。
1番(ユーザーが抱える問題はなんですか?)=Desirability(ユーザーニーズ)
Amazonができる前まで、多くの人々はインターネット小売店による荷物の配達の遅さに不を感じていました。それゆえに、配達時間の短縮に対する期待は徐々に高まっていました。
2番(ユーザーが抱える問題に対するあなたの解決策はなんですか?)=Feasability(実現可能性)
これに対し、Amazonは、「予約出荷サービス」という新たなシステムを導入しました。これは顧客の購入行動をあらかじめ予測し、その地域に在庫を発送しておくことで、顧客が注文クリックを押すと、すぐに配送されるシステムです。
AmazonのCEOはこの解決策にニーズがあるかどうかを検証するため、タクシーなどを使用して配送実験をしました。
1番を踏まえて、2番の解決策を提示した結果、Amazonは、ユーザーニーズのあるサービスを作ることができました。
3番(あなたのビジネスは収益化可能ですか?)
3番で、この予約出荷サービスが収益化可能かどうかを検証し、可能だと判断した場合、Amazonは、PMFの達成をすることができます。
まとめ
本記事では、PMFとPSFについて見てきました。企業が事業を成功させる上において、自社の作るサービスが、ユーザーニーズや、市場に適合(FIT)しているかどうかを確認することが非常に重要になります。より具体的にはPSFの検証終了後にPMFの検証をする必要があります。
PSF(Problem-Solution FIt)達成とは、ユーザーが抱える問題をあなた独自の解決策で解決可能かどうかを知る指標であり、PMF(Product-Market Fit)達成とは、スタートアップが商品を売るための適切な市場にいて、その市場を満足させることができる製品を作り出している状態を指します。
PMFの達成によって、スタートアップの商品やサービスが飛ぶように売れ、Mission実現のための非常に大きな一歩となるでしょう。
自社に合ったVC・投資家を効率的に見つけませんか?
StartupListでは、投資家の投資レンジや評価基準、
過去の経歴等から自社に合った投資家を検索可能です。
StartupList上で、見つけた投資家とそのままコンタクトをとることもできます。
現在、登録済のベンチャー企業は8,500社以上、投資家数は3700名以上。
画像出典元:unsplash