デッドファイナンスとは外部から有利子負債の借り入れによって資金調達する方法です。
「借入は返済が必要だからエクイティファイナンスの方がよい」と思っている人も多いのではないでしょうか?
確かにデッドファイナンスには返済が必要ですが、中小事業者にとってエクイティファイナンスよりも利用しやすいなどのメリットもあります。
デッドファイナンスのメリットとデメリットを理解して適切に活用することが重要です。
デッドファイナンスの特徴や資金調達方法、さらにはどんな企業に向いているのかを詳しく解説していきます。
デッドファイナンスとは?
デッドファイナンスとは有利子負債を利用した資金調達方法を指します。
利息が発生する金融機関からの借入金や社債などがデッドファイナンスに該当します。
なおデッドファイナンスのデッドは英語でDebtであり、負債や借金という意味です。
デッドファイナンスで資金調達することによって、貸借対照表の負債が増えます。
なお、デッドファイナンスとは反対の資金調達方法がエクイティファイナンスです。
エクイティファイナンスは株式の発行などの資金調達方法ですので、資金調達によって負債が増えるデッドファイナンスとは正反対の資金調達方法だと言えるでしょう。
デッドファイナンスの種類
有利子負債による資金調達方法はいくつかありますが、代表的な資金調達方法は次の5つです。
- 日本政策金融公庫
- 制度融資
- 銀行融資
- 社債
それぞれの資金調達方法の特徴などについて詳しく解説していきます。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は国が100%出資する中小事業者の資金繰りを支援する金融機関です。
創業資金や運転資金融資などを1%〜3%程度の低金利で行っています。
日本政策金融公庫の最大の特徴は、銀行や信用金庫などの民間の金融機関が融資の際に利用している信用保証協会の保証をつけずに融資が可能するという点です。
そのため、民間の金融機関とは完全に別枠で融資を受けられるのが特徴だと言えます。
例えば、民間の金融機関で信用保証協会の保証が得られずに融資を断られたとしても、信用保証協会とは無関係に融資を行っている日本政策金融公庫であれば融資が受けられる可能性があります。
制度融資
制度融資とは、地方自治体が金利や保証などを設計し、信用保証協会が保証を行い、金融機関が融資をする仕組みです。
地方自治体が一定の資金を民間金融機関に預託した上で融資が行われるので、低金利で融資を受けることができます。
また保証料の補助や利息の補助なども受けることが可能です。
そのため、低金利かつ少ない保証料の負担で利用することができます。
地方自治体が融資を行うわけではなく、あくまでも融資するのは金融機関であると理解しておきましょう。
信用保証協会が保証して金融機関が融資をするという形は銀行融資でも同じですので、制度融資も銀行融資のうちの1つと考えることもできます。
制度融資は保証料や金利が一般の融資よりもお得にできているため、銀行融資よりも最初に制度融資の利用を検討するのがよいでしょう。
銀行融資
銀行融資とは、銀行が自社の基準や商品で事業者に対して融資を行うものです。
基本的に適用される金利は決算状況を審査して決定する格付けによって決まり、決算状況が良好な企業ほど低金利が適用されます。
無担保・無保証で融資を受けることができるのはよほど業況がよい企業だけで、基本的には信用保証協会の保証をつけて融資を行います。
返済を期日通りに行い、信用をつけていくことで、保証をつけずに融資する「プロパー融資」を利用することも可能です。
社債
社債とは企業が金額や期日・利息などを決めたうえで債券を発行して投資家からお金を集める方法です。
不特定多数の人に社債購入を募集する「公募債」は、有価証券報告書を提出しなければならないなど発行の条件が非常に厳しいため中小事業者が利用することは非常に難しくなっています。
中小事業者が利用するのであれば、社債の購入者が50名未満で縁故者や会社に関連する者に限定された「少人数私募債」を利用して資金調達するのが基本です。
少人数私募債は銀行が保証する「銀行保証付(銀行引受)私募債」か信用保証協会が保証する「信用保証協会保証付私募債」として発行されるのが一般的です。
銀行も信用保証協会もよほど業況のよい企業でないと社債の保証は行わないので、少人数私募債を発行するということはその企業が信用できるという証にもなっています。
関連記事:新創業融資制度とは?専門家に創業融資の審査ポイントや全貌を取材
デッドファイナンスのメリット
デッドファイナンスには次の3つのメリットがあります。
- 株主から経営権を奪われる心配がない
- 返済によって信用を蓄積できる
- 中小事業者でも簡単に資金調達できる
デッドファイナンスはエクイティファイナンスと比較してどのようなメリットがあるのか、詳しく見ていきましょう。
株主から経営権を奪われる心配がない
デッドファイナンスは負債によって資金調達するので、株主の構成に変化がありません。
そのため、いくら資金調達をしても会社は既存の株主のものですので、経営に口を出されたり、経営権を奪われるような心配はありません。
エクイティファイナンスとは資金提供者に株式を発行することですので、新たに増えた株主から経営に口を出されたり、場合によっては経営者が株主に追放されるリスクもあります。
この点、デッドファイナンスは返済さえ期日通りに行っていけば、銀行から「お客様」として扱われます。
経営の独立性をしっかりと保つことができるのがデッドファイナンスの大きなメリットです。
返済によって信用を蓄積できる
デッドファイナンスで調達した資金を期日通りにしっかりと返済していけば、金融機関との信頼関係が構築されます。
すると、次の資金を借りる際にも借りやすくなり、金利面などでよりよい条件で借りることもできるようになります。
逆に返済に遅れてしまった場合には、信用を失うばかりか貸しているお金の一括返済を求められる「期限の利益喪失」という事態となってしまう可能性もあるので、返済期限は必ず守るようにしてください。
中小事業者でも簡単に資金調達できる
デッドファイナンスの1番のメリットが「資金調達が簡単」という点です。
しっかりと決済を行っている事業者であれば、どんなに小さくても日本政策金融公庫や地元の金融機関からお金を借りられる可能性はあります。
黒字の場合やこれまで事業資金を借りたことがない事業者であれば、審査に通過できる可能性は決して低くはないと言えるでしょう。
一方、返済の必要がないエクイティファイナンスは、中小事業者が資金調達することは簡単ではありません。
むしろ、よほど画期的なアイデアや技術を持っていない限りは不可能だと考えた方がよいでしょう。
事業規模が小さく、不安定な中小事業者でも資金調達しやすいのもデッドファイナンスのメリットです。
デッドファイナンスのデメリット
デッドファイナンスはエクイティファイナンスと比較して次の3つのデメリットがあります。
- 利息の支払いが必要
- 負債が増えて自己資本比率が下がる
- 返済が必要
デッドファイナンスによって資金調達する前に、3つのデメリットについてもしっかりと理解しておきましょう。
利息の支払いが必要
公的融資にせよ、銀行融資にせよ、社債にせよ、利息の支払いは必ず必要になります。
例えば金利3%で1,000万円を10年返済で借りた場合には、利息負担の合計は160万円近くになります。
そして、利息の支払い分に関しては損益計算書上の費用になりますので、資金繰りだけでなく収支まで圧迫することになります。
デッドファイナンスには必ず利息の支払いが発生するので、損益を圧迫するのは大きなデメリットです。
負債が増えて自己資本比率が下がる
デッドファイナンスは負債によって資金調達する方法です。
貸借対照表で負債が増えるということはあまりよいこととは言えません。
例えば、総資産1,000万円、このうち自己資本が500万円の企業の自己資本比率は500万円÷1,000万円=50%です。
しかしこの企業が300万円の借入をしたとすると、
総資産の1,300万円に対して自己資本は500万円ですので、自己資本比率は500万円÷1,300万円=38.4%
となります。
負債が増えることによって貸借対照表上の評価が悪化し、将来における融資や助成金の審査で不利になります。
返済が必要
デッドファイナンスは必ず返済が必要です。
ここが返済の必要のないエクイティファイナンスとの最も大きな違いだと言えます。
返済によって資金が流出するため、デッドファイナンスはエクイティファイナンスと比較して間違いなく資金繰りに与えるダメージは大きくなります。
一時的に資金が増えるものの、デッドファイナンスは分割または一括で調達した資金を返済しなければならないのはデメリットです。
デッドファイナンスとエクイティファイナンスの違い
デッドファイナンスとエクイティファイナンスの違いをまとめると次のようになります。
- 経営に影響がない
- 中小事業者でも資金調達が簡単
- 利息が発生する
- 返済が必要
- 自己資本比率を悪化させる
デッドファイナンスは中小事業者にとって、最も簡単な資金調達手段の1つですが、返済や利息の負担が生じるという点に注意しましょう。
関連記事:エクイティファイナンスとは?リスクとともにわかりやすく解説
デッドファイナンスが向いている企業の特徴
デッドファイナンスは次のような企業に向いている資金調達方法です。
- エクイティファイナンスができない事業者
- すぐにお金が必要な事業者
デッドファイナンスが向いている企業の特徴を解説していきます。
エクイティファイナンスができない事業者
投資家に株式を発行して出資を受けるエクイティファイナンスはどのような企業でもできるわけではありません。
投資家が出資をする企業は「これから伸びるだろう」と期待できるような企業だけです。
一般的な普通の中小事業者が投資家から出資を受けることは現実的ではありません。
このようないわゆる「普通の中小事業者」でも比較的簡単に資金調達できるのがデッドファイナンスです。
エクイティファイナンスができない事業者はデッドファイナンスで資金調達しましょう。
すぐにお金が必要な事業者
「できる限り早く資金調達したい」という事業者もデッドファイナンスが向いています。
エクイティファイナンスは出資者を見つけ、条件等をまとめるまで数ヶ月程度の時間がかかることも珍しくありません。
デッドファイナンスであれば2週間〜3週間程度では資金調達できるので、急いでお金が必要な場合もデッドファイナンスが向いています。
デッドファイナンスが向いていない企業の特徴
一方、次のような企業はデッドファイナンスは向いていません。
- 負債を増やしたくない企業
- 費用を増やしたくない企業
- 将来的な資金繰りの悪化が心配な企業
デッドファイナンスが向いていない3つの企業の特徴を詳しく見ていきましょう。
負債を増やしたくない企業
資金調達によって負債が増えるデッドファイナンスは、負債を増やしたくない企業や自己資本比率を引き下げたくない企業には向いていません。
貸借対照表を健全に保ちたい企業は、自己資本比率がむしろ向上するエクイティファイナンスでの資金調達を検討した方がよいでしょう。
費用を増やしたくない企業
デッドファイナンスには利息の支払いが発生し、利息の支払いは損益計算上の費用に該当します。
そのため、利息負担が大きくなればなるほど費用が増大し、収益が圧迫されることになります。
「ギリギリ黒字」という企業は、利息の負担によって赤字に転落することもあるので、費用を増やしたくない企業もデッドファイナンスは不向きです。
将来的な資金繰りの悪化が心配な企業
デッドファイナンスには返済が伴います。
そして、長期資金で借りた場合には返済も長期間にわたり、例えば10年返済で借りた場合は10年かけて返済していかなければなりません。
「将来、事業規模が縮小する見込みだから、この先の資金繰りが心配」という人は、返済が長期化するデッドファイナンスは利用すべきではありません。
エクイティファイナンスであれば返済の必要がないので、資金繰りの悪化が心配な企業も安心して利用することができます。
まとめ
デッドファイナンスとは融資や社債などの方法で外部から有利子負債を借り入れて資金調達する方法です。
返済や利息の支払いの必要性があるものの、エクイティファイナンスが難しい中小事業者や経営状況の悪い企業でも利用できます。
エクイティファイナンスとの違いを理解して、適切にデッドファイナンスを活用しましょう。
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画像出典元:O-DAN